記事の転用はTechEyesOnline2020/08/31 技術情報・レポートより詳細はこちらへ
テクトロニクスは2012年に教育、個人(電子工作など)、産業に向けて25MHz〜150MHz帯域の安価な2チャンネルオシロスコープTBS1000シリーズを発売した。その後2013年には4チャンネルモデルが登場し、2014年に性能を向上させた2チャンネルのTBS1000Bシリーズ、教育用途向けのTBS1000B-EDUシリーズとなった。このたび(2020年8月4日)発売された2チャンネルのTBS1000Cシリーズは主にTBS1000B-EDUシリーズのターゲット、コンセプト、価格帯を継承しながら、アナログ性能の向上などの改善が行われている。
電気信号の波形観測を重視した設計
教育現場、個人、産業分野では受動プローブを使った電気信号の観測が主に行われる。また、オシロスコープに取り込んだ波形をそのまま観測することがほとんどである。このためオシロスコープのユーザが求めることは、使いやすく正確な波形観測ができることである。ユーザにとってTBS1000Cシリーズの最大の改善点はアナログ特性を向上させたことである。従来のTBS1000Bシリーズに比べてノイズレベルを低くして、より鮮明に波形を観測できるようにした。
ユーザインタフェースや主な機能は2020年4月に発売された上位機種のTBS2000Bシリーズと同じコンセプトで作られている。TBS1000BシリーズとTBS1000Cシリーズの主な仕様比較を以下に示す。
TBS1000Bシリーズ | TBS1000Cシリーズ | ||||||||
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TBS1052B | TBS1072B | TBS1102B | TBS1152B | TBS1202B | TBS1052C | TBS1072C | TBS1102C | TBS1202C | |
入力チャネル数 | 2チャンネル | 2チャンネル | |||||||
周波数帯域 | 50MHz | 70MHz | 100MHz | 150MHz | 200MHz | 50MHz​ | 70MHz | ​100MHz​ | 200MHz​ |
最高サンプル・レート | 1.0GS/s | 2.0GS/s | 1GS/s | ||||||
入力感度レンジ | 2mV〜5V/div | 1mV/div〜10V/div | |||||||
入力インピーダンス | 1MΩ(20pF) | 1MΩ​±2%(14pF±2pF) | |||||||
時間軸レンジ | 2.5ns〜50s/div | 2ns/div〜100s/div | |||||||
時間軸確度 | 50ppm | 20ppm | |||||||
レコード長 | 2.5kポイント | 20kポイント |
テクトロニクスはエントリー市場を強化
次世代の技術者である学生が最初に使うオシロスコープは将来のオシロスコープの選定に大きく影響する。このため豊富なオシロスコープのラインアップを持つテクトロニクスはエントリー分野を重視している。テクトロニクスではエントリークラスのオシロスコープにTBS1000シリーズとTBS2000シリーズがある。この2つの製品の大きな違いはプローブインタフェースのTekVPI(Tektronix Versatile Probe Interface)の有無である。上位機種のTBS2000Bシリーズは標準の受動プローブ以外に高電圧差動プローブや電流プローブなど、電源を必要とするプローブを利用することを前提に作られている。そのほかの入力チャンネル数やレコード長にも違いがある。
TBS1000Cシリーズ | TBS2000Bシリーズ | |||||||||
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TBS1052C | TBS1072C | TBS1102C | TBS1202C | TBS2072B | TBS2102B | TBS2202B | TBS2074B | TBS2104B | TBS2204B | |
入力チャネル数 | 2チャネル | 2チャネル | 4チャネル | |||||||
周波数帯域 | 50MHz​ | 70MHz | ​100MHz​ | 200MHz​ | 70MHz | ​100MHz​ | 200MHz​ | 70MHz | ​100MHz​ | 200MHz​ |
最高サンプル・レート | 1GS/s |
2GS/s(ハーフ・チャンネル) 1GS/s(全チャンネル) |
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入力感度レンジ | 1mV/div〜10V/div | 2mV/div〜5V/div | ||||||||
入力インピーダンス | 1MΩ​±2%(14pF±2pF) | 1MΩ±1%(13pF±1.5 pF) | ||||||||
プローブ・インタフェース | 対応せず | TekVPI | ||||||||
時間軸レンジ | 2ns/div〜100s/div |
TBS220x 型:1ns/div〜100s/div TBS207x 型、TBS210x 型:2ns/div〜100s/div |
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時間軸確度 | 20ppm | 1ms 以上の任意の間隔において±25ppm | ||||||||
レコード長 | 20kポイント | 5Mポイント | ||||||||
波形自動測定 | 32種 | 32 種 | ||||||||
波形演算 | 波形の加算、減算、乗算、FFT | 波形の加算、減算、乗算、FFT |
教育の現場で使われるTBS1000CシリーズとTBS200Bシリーズにはオシロスコープを使って実習を行う際に必要な情報をオシロスコープの画面に表示する機能がある。そのほかにもオシロスコープ入門書をオシロスコープの画面で読むことができるようになっている。
個人で電子工作を楽しむ人にとってはTBS1000Cシリーズが5万円台から購入できるのは魅力的である。産業分野ではコンパクトなオシロスコープは測定を行う現場まで技術者が持参することがあるので、キャリングケースも用意されている。
おわりに
TBS1000Cシリーズは教育から産業まで幅広い領域をカバーするエントリークラスのオシロスコープである。波形を正確に観測するという基本的な性能を改善したことは高く評価できる。教育現場ではオシロスコープ以外のデジタルマルチメータ、ファンクションジェネレータ、カウンタなどの測定器が数多く使われている。エントリー市場での今後のテクトロニクス新製品に注目していきたい。
編集 TechEyesOnline事務局